「成年後見制度」は、高齢化が進む現代社会において、認知症や病気により判断能力が低下した方の財産を守る仕組みです。
この制度では、家庭裁判所が選任した後見人が、本人に代わって財産管理や契約手続きを行います。後見人には親族が選ばれることもありますが、近年では司法書士などの専門家が選任されるケースが増えています。
この記事では、司法書士が成年後見人になった場合に担う役割や、司法書士に依頼するメリット、手続きの流れ、費用などについて、詳しく解説します。
【この記事で分かること】
成年後見人を任命するのは家庭裁判所です。成年後見人は親族がなることも可能ですが、親族以外の場合、司法書士などの専門家が選任されることになります。
司法書士が成年後見人に選任された場合、以下のことを任せることができます。
家庭裁判所への報告
司法書士が成年後見人として選任されると、判断能力が低下した本人に代わって財産を適切に管理する役割を担います。
具体的には、預貯金口座の管理を行い、生活費や介護施設の利用料、保険料、税金などの必要な支払いを滞りなく処理することが求められます。不動産や株式などの資産についても維持管理を行い、必要に応じて契約や売却の手続きを進めることが可能です。ただし、高額な財産を処分する際には家庭裁判所の許可が必要です。
また、本人が後見人の同意なく結んだ契約については、後から取り消す権限もあります。司法書士は専門知識を活かして、本人の財産を適切かつ公正に管理できる点が大きな強みといえるでしょう。
身上監護とは、本人が安心して生活できる環境を整えるための支援を行うことです。具体的には、医療機関への入院手続きや介護施設への入所手続きといった、生活や医療、介護に関する契約を結ぶことを指します。本人の健康状態や生活環境に応じて、適切なサービスを選択し、契約を進めていくことになるでしょう。
ただし、契約手続きを進める際は、必要に応じて病院の担当者や施設のスタッフと連絡を取り、本人にとって最適な対応をとることが重要です。司法書士が身上監護を担当することで、本人の生活の質を保ちながら適切な支援を受けられる体制を整えることができるでしょう。
成年後見人には、定期的に家庭裁判所へ業務報告を行う義務があります。具体的な報告内容は、本人の財産状況、収支の詳細、生活状況、そして契約や支出の履歴などです。これにより、家庭裁判所が後見業務が適正に行われているかを監督できる仕組みです。
司法書士は法律の専門家として、適切な形式で報告書を作成し、必要な資料を整えて提出します。こうした適切な報告を行うことで、本人の権利がしっかりと保護され、家族も安心して制度を利用できる環境が整います。
成年後見人を司法書士に依頼すると、主に次の4つのメリットがあります。
司法書士が複雑な手続きを代理してくれる
本人の利益を守りながら手続きを行える
不正防止のためリーガルサポートへの報告義務がある
成年後見に関するノウハウを蓄積している
各メリットについて、以下で詳しく見ていきましょう。
成年後見制度では、財産管理や各種契約の締結、家庭裁判所への年次報告など、複雑な手続きが数多く必要です。これらの手続きは専門的な知識が求められるため、一般の方が行うには時間的にも精神的にも大きな負担となるでしょう。
司法書士に依頼すれば、書類作成や申立手続き、報告作業といった、複雑な手続きを代行してもらえます。これにより、安心して本人の支援に集中できる環境が整うでしょう。
司法書士は、「依頼者の利益を最優先にする」という職業倫理のもとに業務を行う専門家です。そのため、本人の財産や権利を守るために常に最善の判断を下します。
家族が後見人になる場合、どうしても感情的な問題が絡んだり、親族間でトラブルが発生したりするリスクがあるでしょう。その点、司法書士は第三者として公正な立場から対応するため、そうした問題を避け、本人に必要な医療や介護の契約、財産管理などを確実に行えます。
これにより、本人や家族は安心して生活支援を受けられる環境が整うでしょう。
司法書士が成年後見業務を行う際には、公益社団法人リーガルサポートが関与するケースが多くあります。
リーガルサポートに登録する司法書士は、事前に専門的な研修を受ける必要があり、これにより司法書士の質が高い水準で維持されています。成年後見人に選任された後も、司法書士はリーガルサポートへ半年に1回、業務の状況報告をする義務があるのが特徴です。
この仕組みにより、家庭裁判所による監督に加えて、リーガルサポートによる確認も行われることになります。司法書士を成年後見人に依頼すると、家庭裁判所とリーガルサポートによるダブルチェックが可能となり、不正防止の効果が高まるため、より安心して制度を利用できるでしょう。
司法書士は法律の専門家であり、成年後見制度に関して豊富な知識と経験を持っています。そのため、制度の利用方法や書類作成、トラブル対応など、実務上のノウハウを活かした適切な対応が可能です。
特に、予期せぬトラブルや法的に複雑な問題が発生した場合でも、司法書士の専門知識が役立つでしょう。多くの事例を扱ってきた経験から、さまざまな状況に応じた最適な解決策を提案できるため、家族が成年後見人になるよりも確実かつ効率的に手続きを進められます。
成年後見制度に関わる専門家には、司法書士、弁護士、行政書士がいますが、それぞれ得意分野が異なります。
弁護士は法律の専門家であり、訴訟やトラブル解決には適していますが、日常的な財産管理や申立手続きの代理は主な業務ではありません。
行政書士は書類作成や手続き補助を行えますが、家庭裁判所に提出する成年後見申立書を代理する権限はありません。
司法書士は登記業務、財産管理、申立書類作成、家庭裁判所への手続き代理など、日常的かつ実務的な後見業務を包括的に行える点が強みです。そのため、申立てから選任後の継続的な管理まで、司法書士に一貫して依頼することで手続きの効率化と安心感を得られます。
成年後見制度に関するお悩みはさくらリーガルパートナーまでお問い合わせください。
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次に、成年後見の申立てを司法書士に依頼した場合の一般的な流れについて説明します。
手続きは大きく分けて、以下の4つのステップで進んでいきます。
必要書類を集める
司法書士が申立書類を作成する
家庭裁判所での申立を行う
各ステップについて、以下で詳しく見ていきましょう。
まずは、成年後見制度の利用を検討している旨を司法書士に相談します。司法書士から成年後見制度の詳細や必要な手続きについて丁寧な説明を受けることができるでしょう。この段階で疑問点や不安な点があれば、遠慮せずに質問することが大切です。相談先としては、公益社団法人成年後見センター・リーガルサポートに加入している司法書士がおすすめです。
さくらリーガルパートナーは、リーガルサポートに加入しており、成年後見制度に関するご相談を承っております。在籍する司法書士は裁判所提出書類の作成や申立ての流れにも精通しているため、スムーズに手続きを進められます。
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続いて、申立てに必要な書類を集めます。委任状により司法書士に取得してもらえる書類もあるため、事前に確認しておくとよいでしょう。書類の準備には時間がかかることがあるため、早めに準備を始めるのがポイントです。
主な必要書類は以下の通りです。
申立書
申立人の戸籍謄本
本人の住民票または戸籍附票
本人の診断書および付票
本人の登記されていないことの証明書
後見人候補者の戸籍謄本
後見人候補者の住民票
財産に関する資料(不動産の登記事項全部証明書など)
愛の手帳の写し(該当する場合)
司法書士は書類の漏れや不備を防ぐサポートを行い、申立てが円滑に進むよう支援します。
必要書類がそろったら、司法書士に成年後見人申立の書類作成を依頼しましょう。作成の際は、戸籍や財産状況、毎月の支出や収支予定などを、申立人と司法書士が確認しながら進めていきます。
専門家に依頼することで、誤記や不備による申立ての差し戻しリスクを大幅に減らすことができます。
申立書類が作成できたら、家庭裁判所に申立てを行いましょう。申し立てが受理されると、家庭裁判所で審理が行われ、本人との面談や鑑定を経て、成年後見人が選任されます。
ここでも司法書士が申立代理人として関わることで、手続き全体の流れを的確にサポートしてもらえます。
司法書士に後見開始の申立てを依頼すると、以下の2種類の費用が発生します。
申立て手続きにかかる手数料
成年後見人に支払う報酬
費用は司法書士により異なるため、依頼する前におおよその金額を確認しておくことが重要です。ここでは、それぞれの費用について詳しく見ていきましょう。
申立て手続きにかかる一般的な手数料は以下の通りです。
| 費用 | 金額 |
| 申立て手数料(収入印紙) | 800円 |
| 登記手数料(収入印紙) | 2,600円 |
| 郵送料(切手) | 4,000円程度 |
| 本人分の戸籍謄本や住民票() | 750円 |
| 登記されていないことの証明書 | 300円 |
| 不動産の登記事項全部証明書 | 600円※1 |
| 不動産の固定資産評価証明書 | 300円程度※2 |
| 診断書の発行手数料 | 3,000円~1万円程度※3 |
| 鑑定費用(必要な場合) | 10万円以下 |
※1 オンライン請求・窓口交付の場合490円、オンライン請求・送付の場合520円。
※2 自治体により異なる。また、不動産の数によっても変わる。
※3 医療機関により異なる。
司法書士へ書類作成を依頼した場合、書類作成費用がかかります。さくらリーガルパートナーへ書類作成を依頼した場合の費用目安は以下の通りです。
| 法定後見申立書作成 | 100,000円~ |
| 任意後見契約書作成 | 200,000円~ |
後見人に司法書士が選任されると、継続的な財産管理や家庭裁判所への報告義務が生じます。報酬は家庭裁判所が、本人の財産規模や業務量を基に決定し、月額は2万〜5万円程度が一般的です。なお、管理する財産が多いほど報酬額も高くなる傾向があります。基本的な報酬額の目安は以下のとおりです。
| 管理財産額 | 基本報酬額(月額) |
| 1,000万円以下 | 2万円 |
| 1,000万円~5,000万円以下 | 3万円~4万円 |
| 5,000万円以上月額 | 5万円~6万円 |
司法書士が成年後見人に選任されると、親族に代わって財産管理・身上監護・家庭裁判所への報告などを適切に行い、本人の利益を守りながら、複雑な手続きを代理してくれます。これにより、家族の負担が大幅に軽減されます。
また、司法書士にはリーガルサポートへの報告義務があるため、不正防止の仕組みが働き、安心して制度を利用しやすい点もメリットです。
ただし、後見開始後は継続的な報酬の支払いが必要となるため、事前に費用を確認しておくことが大切です。
さくらリーガルパートナーでは、成年後見の手続きを行っております。状況に合わせた最適なプランをご提案いたしますので、お気軽にご相談ください。
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